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第25話「内海水軍」
 カツンカツン・・・
どこまで続くとも知れない階段を、諒子とヒカルは無言で降りていく。手を伸ばせば届く程の天井に反射された二人の足音だけがこの空間を支配していた。・・・一体どのくらい無言の歩みが続いたろう、元来おしゃべりではない諒子はともかく、ヒカルはこの沈黙に精神的限界を感じていた。

「それにしても、久しぶりに母島に行って改めて思ったんだけど、アタシの親ってホント酷い人よねぇ。赤ん坊だったアタシをあんな所に平気で捨てれるんだから。」
返事を期待していたわけではなかったヒカルは呟くように言った。今更親に恨み言を言うつもりだった訳ではない、ただ口をつく話題が欲しかっただけだ。しかし・・・

 カツ・・・
不意に先行していた諒子が歩みを止めた。思わずぶつかりそうになるヒカル。
「なに?お諒さんどうしたの?」
「・・・親か・・・」
自嘲気味に呟く諒子。理由はどうあれ彼女も子供を捨てた親の一人に違いなかった。足音に代わり真の静寂が辺りを支配する・・・今度は諒子が沈黙を破った。ヒカルを振り返り、全く違う話題を振ってきた。
「ねえヒカル君、母島にしろ御名月島にしろ孤島においないさんが多く存在するのは何故だと思う?」
「・・・え?」
「アナタと同じよ。『呪われた子』の捨て場所として、孤島が選ばれる事が多かったの。手元には置いておけない、でも殺すには忍びない・・・せめてもの親の愛情だったのかもね。」
「そんな・・・」
ヒカルは絶句した。本来誰よりも守ってもらいたい存在の親にさえ捨てられる・・・。おいないさんの迫害は、人口管理局設立の遥か以前から行われていたのだ。
「そんなのってないわよっ。アタシ達が一体どんな悪い事をしたって言うの?ただ生まれてきただけよ。好きでおいないさんになった訳じゃないわ!」
思わず激しい口調になるヒカル。諒子は神妙な顔で黙ってその非難を受け止めた。そしてゆっくりと口を開いた。
「そう、私達は何も悪い事はしていない。ただ認めて欲しいだけ、私達の存在を。・・・遥か昔にもアナタと同じように考えたおいないさん達がいた。」
「え?」
「孤島に捨てられた彼らは徒党を組んで武装蜂起したの。戦うことで自分達の存在を認めさせるために。元々周囲を海に囲まれた土地柄、彼らは船の扱いに長けていた。彼らは自らを『水軍』と名乗り時の権力者に戦いを挑んだのよ。」
「それって・・・まさか!?」
「そう、今私達がいるココを根城にしていた内海水軍よ。彼らの戦いは正に『おいないさんの乱』だったの。」
「・・・」
あまりの話の展開に再び言葉を失うヒカル。諒子はゆっくり体の向きを変えヒカルに背を向けた。そして静かに言葉を続けた。
「彼らは何も政府転覆をもくろんだ訳じゃない、自らの存在を賭けた避けて通れない必然の戦いだったの。長い長い戦いの末、千姫が水軍の長になった頃ついに彼らはあるモノを勝ち取ったの。おいないさんが何の心配もなく普通の人と暮らしていける為のあるモノを・・・。でもその代償に内海水軍は崩壊寸前まで追い込まれた、追っ手に追い詰められた千姫はそのモノをアジトの一番奥に封印し急ぎ脱出したの。」

一気にそこまで話すと、「話はここまで」とばかりに諒子は再び先の見えない階段を降りはじめた。その背中をじっと見ていたヒカルも、深く息を一つ吐くとゆっくりとその後を追った。
「それが『忘れ物』・・・そして・・・」
ヒカルは心の中で呟いた。おぼろげだったこの旅の目的が今はっきりと分かったような気がした。この階段の先にあるもの・・・それが・・・。

・・・続く
| ☆リレー小説/ヒカルの後 | 11:34 | comments(0) | - |
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